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「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」感想

2年前の本ですが、お世話になっている方より紹介があり、読んでみました。

www.nikkeibp.co.jp

本の要点は、「オフライン→オンライン」へのシフトという議論はもう古く、今はオンラインにオフラインを内包し、デジタルによる継続的な顧客接点で、バリュージャーニーを磨いていくべきということです。 つまり、ビジネスのからくりを、顧客を理解するデータを中心に考えましょうという話です。

補足をすると、単にアナログをデジタルに置き換える、という話ではありません。 例えば、はんこを電子印にしよう、とかそういうことではありません。

顧客を理解するために、データ活用を中心に事業(施策)を行い、その理解に基づいて更に事業(施策)を向上させることです。 実際の顧客接点がデジタルか、ノンデジタルか、という区分けは、全くこの本の意図するところとは別です。 顧客を理解する材料を、オフラインの場で得てもいいし、その理解を活用する先がオフラインであっても別に良いのですが、重要なのは、顧客理解はデータを使わないと深いところに至らないので、どんなデータをどう取るかを中心に施策を考えるということです。

本の中の、無人店舗の例が印象的でした。 多くの日本人が無人店舗の目的として考えるのは、効率化、だったのではないでしょうか? また、商品のピックアップを、動画像認識よりも、RFIDでやる方が効率的では?と思っていませんか? そう思っていた人は、社会の理解が不足しているようです。

少なくとも中国の無人店舗を行っている企業は、顧客がどういう判断で商品を選ぶか、どこに視線があるのか、行動の導線は、などのデータを取るためにやっているのであって、効率化が目的ではないのです。 つまり、無人店舗は、小売事業拡大のための、手段でしかないわけです。 無人店舗すごい、などと思ってそれを目的とするのは、やや自己中心的な考え方に陥っている可能性があります。 無人店舗がいいか、有人店舗やオンラインショッピングがいいか、などは、顧客に合わせるべきです。 (とは言え、無人店舗が顧客にとってもメリットがあると思うので、やっているのだと思いますが)

そのため、オフラインの場の必然性があれば、あるべきです。 ただし、重要なのは、オンライン/オフライン関係なく、顧客に最高の価値を提供するための試行錯誤と関係維持をデータ中心に、継続的に行うことです。 オフラインの店舗などでも、オンラインの店舗と思う視点が重要なのです。

こういった、データ中心という方針のもと、オンラインとオフラインという区別は重要でなくなる(と言うか曖昧になっていく)世界観は、OMO (Online Merges with Offline)と呼ばれており、本書も説明しています。 O2O (Online to Offline)という、まずはオンラインで顧客に知ってもらって、その後オフラインに足を運んでもらおう、というビジネス戦略と対比して考えられるものです。

と、このように要約してみましたが、率直に言って、多くの日本人にとっても、これはすでに、肌で分かっている内容、だと感じました。 ただし皆さん、できてますか?という話です。 言われて、今どきそうだよね、と思っている人でも、いざ事業を考えるときに、「今はオフライン中心だが、今後はオンラインも使っていこう」とか考えてしまってないでしょうか?

データドリブンとは、もう枯れた言葉かもしれませんが、それをもう一つブレークダウンしたのが本書であり、常に自身にビジネスのからくりとしてOMOを言い聞かせ続けることが重要かな、と感じました。

あと、ここでは詳しく書きませんが、アリババにあるUED (User Experience Design)大学の学長が語る、OMOの行き着く先、の話は、抽象的ですが、素晴らしい内容なので、皆さん読んで頂ければと思います。 日本では(と言うより世界を見ても)まだほとんど実践されていないが、たしかに来るであろうと思わせる、今後のデジタルジャーニーが語られています。 そこでは、あるべき姿としてのプラットフォームやエコシステムが示されています。 プラットフォームは、ITシステムといった実装の話ではなく、ステークホルダーWin-Winな関係が醸成されるエコシステムとしてのプラットフォームです。 我々は、そのWin-Winになるためのからくり、そのからくりに必要な材料(それが往々にしてデータ)をどう作るかを、自分のことと思って考えていくべきでしょう。

自分は、エンジニアですが、どういった技術をどういう観点のもと作るべきかは常に考えており、本書はその一助になったと感じています。

まとめ

読んで損はないと思います。 たぶん、多くのビジネスパーソンが、こういうビジネスをしたい、とモヤッと思っていたことが、はっきり書かれている感じですが、このモヤッとが、はっきりする、というプロセスは重要かと思います。 自分にしっかり言い聞かせられるようになりますし、周りにも共通理解として伝えることができるようになるためです。

ビジネス作りは、自分ひとりでできることではありません。 この本は、少なくとも、自分と共にビジネスを作る組織内での共通理解のための参考書として使えると思います。

なお、全4章のうち、2章が核で、そこだけなら、かかっても数時間で読めるかと思います。 また、本全体を通してもそこまで分量が多くはないので、時間/価値、という意味でのコスパの良い本かなと思います。